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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)10389号 判決 1963年1月26日

判   決

原告

東京土地株式会社

右代表者代表取締役

矢口敏

右訴訟代理人弁護士

小薬正一

北川豊

被告

東京都

右代表者都知事

東龍太郎

右持定代理人

石葉光信

永井孝二郎

右当事者間の昭和三四年(ワ)第一〇、三八九号損害賠償請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金百四十万円及びこれに対する昭和三十三年四月二十四日から支払ずみまで年三割の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、1 東京都渋谷税務事務所長は、訴外共栄商事株式会社が昭和二十五年度第一期ないし第三期、昭和二十八年度第一期ないし第四期、昭和二十九年度第一期ないし第三期の各固定資産税を滞納したのでその滞納処分として、昭和三十年三月二十九日、右訴外会社の所有にかかり、東京法務局渋谷出張所昭和二十五年十二月三十日受付第一九、四八六号を以つて同会社のために所有権保存登記のなされていた別紙第一目録記載の建物(以下「実在の建物」という。)に対し差押、公売手続を開始するに至つた。

2 訴外有限会社清水屋は、当時、右実在の建物を訴外共栄商事株式会社から賃借し、此処に工場、店舗を設けて食品加工販売業を営んでいた関係上これを買取ることとし、昭和三十二年十一月四日、渋谷税務事務所長の行なつた右公売手続に参加してその落札者となり同月二十日公売代金を完納してその所有権を取得することとなつた。

3 しかるに、渋谷税務事務所長は、右実在の建物についての滞納処分を執行するに当り、その所在場所が東京都渋谷区千駄ケ谷五丁目九百三十六番地の一であるにも拘らず、これを誤つて東京都渋谷区千駄ケ谷五丁目九百三十六番地の二として滞納処分手続をすゝめた。

すなわち、差押に当つては、その所在場所を右の如く東京都渋谷区千駄ケ谷五丁目九百三十六番地の二と誤記した差押調書を滞納者たる訴外共栄商事株式会社に交付するとともに、東京法務局渋谷出張所長に対しても右同様に誤つた所在場所を表示して差押登記の嘱託をなし、このため、右渋谷出張所長は、昭和三十一年十月九日、これを未登記建物なりとして右嘱託に基づき建物所有者を訴外共栄商事株式会社とし、建物の表示についてその所在地、家屋番号を「東京都渋谷区千駄ケ谷五丁目九百三十六番地の二、家屋番号同町九百三十六番とするほかその種類、構造、床面積については実在の建物と同一とする所有権保存登記を新に職権でなしたうえ、これに同出張所同日受付第二七、七八五号を以つて差押権利者を被告とする差押登記をなし(以下、右新編成の登記簿上の建物を「登記簿上の建物」という。)爾後公売公告、公売後の換価財産についての権利移転登記の嘱託等の手続はすべて右登記簿上の建物を表示して進行せられるに至つたのである。この結果落札者たる訴外有限会社清水屋のための所有権移転登記は、昭和三十二年十一月二十日、東京法務局渋谷出張所同日受付第三一、三六四号を以つて、右登記簿上の建物についてなされるに至つた。

二、原告は、訴外有限会社清水屋から、同社が現に使用中の本件実在の建物を担保として金融を受けたい旨の申込を受け、その際右実在の建物は同社が渋谷税務事務所長の行なつた公売によりその所有権を取得したものである旨説明されたので、建物を見分し、渋谷税務事務所長作成の公売関係書類を調査した結果右公売手続の過誤には気付かないまゝ同社が真に右実在の建物の所有権を取得したものと確信し専らその担保価値を信頼し、これを担保として昭和三十三年二月二十四日、同社に対し、返済期限同年四月二十三日、貸付期限内の利息は年一割五分の割合により前払すること、右期限後は年三割の割合による遅延損害金を支払うこと等の約で、金百四十万円を貸し付け交付した。そして、担保権の設定については、右両当事者とも、前記登記簿上の建物が右実在の建物と同一物件であると信じていたので登記簿上の建物につき別紙第二目録記載の抵当権等の設定登記を経由した。

三、右の結果、渋谷税務事務所長の行なつた前記公売処分は、前記過誤のため結局、単に登記簿上存在するにすぎない架空の建物について執行した無効な公売処分であつて、右実在の建物については何等の効力も有せず、落札者たる訴外有限会社清水屋は、右実在の建物の所有権を取得し得ない結果となり、従つて又、原告の設定した前記担保権も全く実在せざる架空の建物に設定したことに帰着し、何れも無効なものとなつた。

又、訴外有限会社清水屋は、実在の建物の敷地の賃借権を有していたにも拘わらず、渋谷税務事務所長の前記過誤により、右実在の建物について所有権取得登記を具備し得なかつたため昭和三十二年十月二十五日に右敷地の新所有者となり、その旨登記を経由した訴外東京交通株式会社に対して右賃借権を対抗できず、その結果、昭和三十四年九月頃強制執行により右実在の建物から退去させられるに至つた。

四、原告は、前記のごとく、専ら実在の建物の担保価値を信頼して訴外有限会社清水屋に対し前記貸金を承諾したのであるが、同訴外会社はその弁済期が到来するもこれを弁済しなかつたので、前記担保権を実行せんとしたところ、意外にも前述のとおり、右担保権は何れも無効に帰したためその実行は不可能に帰し、加うるに右訴外会社が営業上の本拠たる実在の建物から退去を強制されて休業状態に陥り営業収益を全く失つたうえ、他に見るべき資産も有しないため、今日に至るも前記貸金及び遅延損害金の回収は不可能な状況となつた。右は結局、前記渋谷税務事務所長の過誤に基づく無効な公売処分に起因することは明らかであつて、原告はこの結果前記貸金百四十万円及びこれに対する昭和三十四年四月二十四日以降右弁済に至るまで年三割の割合による約定遅延損害金相当の損害を蒙るに至つた。

そして、現在の取引社会の実状及び本件落札者が訴外有限会社清水屋のような事業会社であつたことからいつて、渋谷税務事務所長は、右公売に際し、落札者が右の如く落札物件を担保に供して融資を得るに至るであろうことを予見し得たものというべきである。

五、凡そ、公務員たる者が、物件の差押、公売等国民の権利関係に重大な影響を及ぼすべき処分をなすに当つては、被処分物件の存否、構造、権利関係等の現況につき万全の調査を遂け、右処分の執行に過誤なきを期すべき職務上の義務があるにも拘わらず、渋谷税務事務所長は、本件実在の建物の滞納処分を執行するに際し、右諸点について充分な調査を遂げなかつたため、不注意にも、右実在の建物の既登記なることを看過し、かつ、その所在場所、家屋番号を誤つて差押手続をなした結果出現するに至つた単に登記簿上存在するにすぎない本件登記簿上の建物を右実在の建物と誤信してこれが公売手続を執行したものであつて、その結果、結局、全く実在せざる架空の建物につき公売をなすの違法を犯し右落札者たる訴外有限会社清水屋の実在の建物の所有権取得を無効ならしめるとともに、原告に対し前記損害を惹起せしめたものであるから、原告においてその損害の賠償を求め得ることは明かというべきである。

六、然るところ、渋谷税務事務所長は、被告東京都の職員であるから、被告東京都は、国家賠償法第一条第一項の規定により、右渋谷税務事務所長がその職務たる固定資産税滞納として処分の公売を行なうについて、過失により違法に原告に加えた前記損害を賠償する責に任ずべきものである。

七、よつて、原告は、被告に対し、金百四十万円及びこれに対する昭和三十三年四月二十四日から支払ずみまで年三割の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

と述べ、被告主張のとおり、実在の建物について土地所有者東京交通株式会社から共栄商事株式会社に対し家屋収去土地明渡の請求訴訟が提起せられ、原告勝訴訟の判決がなされ、実在の建物が取毀しを受けるに至つたことは認めると答え、(証拠省略)

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因事実中第一項は認める。

同第二項は不知。

同第三項中、訴外有限会社清水屋が、原告主張の日に実在の建物の新所有者となりその旨の登記を経由した訴外東京交通株式会社のため強制執行により実在の建物から退去させられたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同第四項及び第五項は否認する。

同第六項中、渋谷税務事務所長が被告東京都の職員であること及び固定資産税滞納処分が右渋谷税務事務所長の職務に属することは認めるが、その余の事実は争う。

二、渋谷税務事務所長が実在の建物を公売するに際し、その建物の表示を誤つたにしても、同所長が公売をしたのは右実在の建物自体であるから、落札者たる訴外有限会社清水屋は、右実在の建物の所有権を取得しているのである。従つて、たとえ、訴外有限会社清水屋のためになされた所有権取得登記が無効で、そのため原告主張の担保権の設定登記が第三者に対する対抗力を有しないとしても、原告が右担保権自体を取得しなかつたということにはならないのであるから、原告が右公売により損害を受けるということはない。

仮に、右公売が無効であるため、原告が右担保権を取得し得なかつたとしても、昭和三十二年十一月における右実在の建物の落札価格が金四十六万七千六百円であつた事実から推断すれば、原告が右担保権の設定登記をした昭和三十三年二月二十四日当時の時価もその程度にすぎないと考えられるところ、原告が本件登記簿上の建物について右登記をした時には、既に、訴外藪悌二が金百九十万円の債権について右建物につき第一順位の抵当権設定登記を有していたのであるから原告の担保権は実質上無価値なものであつたというべきであるし、かつまた、原告の右担保権設定は、本件実在の建物のみの担保価値に着目してなされたものではなく、当時訴外有限会社清水屋が有していると自称していた右建物敷地の賃借権が真実存在することを前提としてなされたものであるところ、原告が担保権設定登記をした頃には、訴外有限会社清水屋は右賃借権を有してはいなかつたのであるから、(原告がその主張の担保権の設定を約定した当時には、本件実在の建物の敷地は、既に、訴外東京交通株式会社の所有に移転しており、その後同社は共栄商事株式会社に対し右実在の建物を収去して土地の明渡を求める訴訟を提起して勝訴判決を得、昭和三十三年十二月二十日実在の建物は取毀しを受けた。)この点から言つても、原告の担保権は実質上無価値なものであつたというべく、更に、原告は、担保権の効力、価値の如何に拘らず、訴外有限会社清水屋に対する債権自体を失つた訳ではなく右債権は依然として残存しているのであるから、従つて、以上いずれの点からしても、原告が右担保権を取得できなかつたからと言つても、これに因つて原告に何等の損害も生ずべき謂われはないものというべきである。

のみならず、渋谷税務事務所長は、公売以後における落札者有限会社清水屋と原告との間の取引行為に関与したものではなく、仮りに原告が右取引に基づいて損害を受けたことがあつたとしても、その損害は、通常の経過において渋谷税務事務所長の行為から当然に生ずべき損害ではなく、原告等の自由な意思に基く行為という新たな事由により生じた損害であるというべく、この意味で渋谷税務事務所長の行為と原告の主張する損害との間には因果関係がないものといわなければならない。

と述べ、(証拠―省略)た。

理由

一、渋谷税務事務所長が、原告主張のとおり、訴外共栄商事株式会社に対する固定資産税滞納処分として同社所有で、かつ、既登記の本件実在の建物について差押処分をなすに当り、右実在の建物の所在場所が東京都渋谷区千駄ケ谷五丁目九百三十六番地の一であるにも拘わらず、これを東京都渋谷区千駄ケ谷五丁目九百三十六番地の二と誤つて手続をすゝめた結果、右の誤つた建物所在場所を記載した差押調書が滞納者たる訴外共栄商事株式会社に交付されたほか、建物の所有者を訴外共栄商業株式会社とし、建物の表示について、その所在地、家屋番号を「東京都渋谷区千駄ケ谷五丁目九百三十六番地の二、家屋番号同町九百三十六番」とするほか、その種類、構造、床面積について実在の建物と全く同一の所有権保存登記が嘱託に基き新たに職権でなされ、結局本件登記簿上の建物が出現するに至つたこと、その後の滞納処分の手続が全て右登記簿上の建物の表示に依拠してすゝめられ昭和三十二年十一月四日実施された公売手続において訴外有限会社清水屋がその落札者となり、同月二十日公売代金を納付し、同訴外会社に対する所有権移転登記は昭和三十二年十一月二十日右登記簿上の建物についてなされるに至つたことは、いずれも当事者間に争いがない。

右事実によれば、渋谷税務事務所長の行なつた右公売は、たとえ同所長が本件実在の建物についてこれを行なう意図であつたとしても、その手続において公売対象物件たる建物の特定上不可欠かつ主要な要素である建物の所在場所及び家屋番号の表示に誤まりがあつたのであるから、右公売は、本件実在の建物についての公売処分としてその効力を生ずるに由なく、単に登記簿上にのみ存在するにすぎず客観的には実在せざる架空の建物についてなされたことに帰着し、無効の処分であるといわざるを得ず、訴外有限会社清水屋のためになされた前記所有権移転登記も、右実在の建物についての所有権取得登記としてその効力を認めるには由ないものとせざるを得ない。従つて落札者たる訴外有限会社は、右公売により本件実在の建物の所有権を有効に取得することは出来ないものといわなければならない。

そして、渋谷税務事務所長は右の如き滞納処分による差押、公売処分を実施するに当つて、被処分物件の存否、構造、権利関係の存否等の現況について万全の調査を遂げ、執行に過誤なきを期すべき職責を有することは当然であつて、前記のごとく差押物件の表示を誤まり、その結果生じた無効の登記に依拠して手続を進行したことは、特段の理由のない限り同所長に少くも過失があつたものというべきである。

二、次に、(証拠―省略)を綜合すれば、原告は、昭和三十三年二月二十四日、訴外有限会社清水屋に対し、金百四十万円を貸付期間二ケ月の約で貸し付け交付したが、その際、同会社との約定に基づき右貸金債権担保のため本件実在の建物に担保権を設定する趣旨で、前記登記簿上の建物について同会社のためになされていた所有権移転登記を右実在の建物についての登記であると誤信のうえ、右登記簿上の建物について、それぞれ別紙第二目録記載のとおりの抵当権設定登記及びこれに伴う停止条件付代物弁済契約に基づく所有権移転請求権保全仮登記、賃借権設定請求権保全仮登記等を経由したこと、その後訴外有限会社清水屋は右貸金の弁済をせず、その資産としても僅かに時価五万円相当程度の菓子製造機械を有するのみで他には殆んど財産を有せず無資力であるにかかわらず、原告は前記担保権の実行をなすこともできず、結局、現在は前記貸金債権の元本は勿論利息、損害金も全額回収不能の結果となつていることを認めるに十分であり、また、訴外有限会社清水屋が、原告主張のとおり、昭和三十二年十月二十五日に右実在の建物の敷地の新所有者と為りその旨登記を経由した訴外東京交通株式会社のために、昭和三十四年九月頃、強制執行により右建物から退去させられたことは当事者間に争いがない。

三、ところで、原告が設定を約した前記担保権が結局架空の建物について設定せられたものとして無効に帰したことは前認定の事実に照して明らかというべく、また、訴外有限会社清水屋の所有権取得登記が前記実在の建物についての所有権取得登記として効力を有し得ないことは前認定のとおりであるところ、原告は、右のように貸金債権の回収不能を惹起するに至つたのは、原告が設定を約した右担保権が結局無効に帰したこと及び訴外有限会社清水屋が実在の家屋について所有権取得登記を経由しなかつたためその敷地についての賃借権を新取得者に対抗することができず退去を余儀なくされ休業状態に陥つたことの結果であつて、結局前記渋谷税務事務所長の違法な行為に起因し、このために原告は前記貸金元本、利息、損害金の合計額と同額の損害を蒙つた旨を主張する。

よつて、まず、右原告の設定を約した担保権が無効に帰したことにより原告に損害があつたかどうか及び訴外有限会社清水屋が実在の建物の所有権取得登記を経由し得なかつたために退去を余儀なくされたものであるかどうかについて判断する。証人(省略)の証言によれば、原告が前記担保権を設定するに当つては、本件実在の建物についてその使用の現況を調査したけれども、敷地の使用関係については、債務者である有限会社清水屋が適法な賃借権の設定を受けている旨の同会社代表者の説明と土地所有者と称する野呂義宗の承諾書とに信頼し他に特段の調査もしないまゝ漫然同訴外会社が適法な敷地賃借権を有するものとの前提のもとに、これを担保として金融することを決定するに至つたものであることが認められるところ、(証拠―省略)によれば、訴外有限会社清水屋は、右敷地の従前の所有者である訴外新井(旧姓高橋)妙子の夫で、実在の建物の旧所有者共栄商事株式会社の代表者であり、かつ、その後右敷地の登記簿上の所有者となつた訴外野呂義宗かに右敷地の賃貸について承諾を得ていたことを認め得るけれども、これとともにまた、右野呂義宗の所有権取得登記には、これに優先する第三者のための所有権移転請求権保全の仮登記に基づく本登記がなされており、しかも、右二個の登記は、その後昭和三十二年十月二十九日に至り、訴外東京交通株式会社のため所有権取得登記がなされると同時に、ともに、錯誤を理由に抹消されたことが認められ、さらに、右実在の建物については、その後右訴外会社から共栄商事株式会社に対する建物収去土地明渡請求訴訟の勝訴判決により取毀が執行されたことは当事者の間に争のないところであるから、右事実から推断すれば訴外有限会社清水屋は、前記落札による嘱託登記のなされた昭和三十二年十一月二十日当時には、たとえ実在の建物についての所有権移転登記を具備したとしても、訴外東京交通株式会社に対して主張できるような右敷地の賃借権を有していなかつたと認めるを相当とし、他に右認定を覆えして訴外有限会社清水屋が実在の建物の敷地について適法な賃借権を有していた事実を肯認するに足る資料は存しない。(証拠―省略)を併せ考えると本件実在の建物は昭和三十二年十一月における落札価格が金四十六万七千六百円であつたこと、原告が前記抵当権設定登記等を経由した当時本件登記簿上の建物には既に、訴外藪悌二のため債権額金百九十万円の先順位抵当権が設定されていたことを認めるに十分であつて、右事実によれば仮りに右抵当権の実行により家屋を競売に付したとしてもその競売代金額は全額先順位抵当権者に対する弁済に充当せられる結果となり、原告に対する弁済に充てられるべき残額は生じなかつたものと認めるほかはない。而して以上認定の事実に、原告の自認する訴外有限会社清水屋が実在の建物の敷地所有権を取得した前記東京自動車株式会社から実在の建物について退去明渡の請求訴訟の提起を受け、敗訴の結果強制執行により右家屋の明渡を余議なくされた事実を併せ考えると、原告がたとえ右実在の建物について前記担保権の設定登記を経由することができたとしても、その担保権の内容を実現することは結局不可能であつたものと認めるほかなく、畢竟右担保権は実質的に無価値であつたとなさざるを得ず、また、訴外有限会社清水屋が実在の建物について所有権取得登記を経由し得たとしても早晩その退去明渡を免れ得なかつたものと断ぜざるを得ない。

四、してみれば、訴外有限会社清水屋が実在の建物について所有権取得登記を経由しこれに対し原告が前記担保権の設定登記をなすことができたとしても、原告は結局債権の回収をなすことを得ず損害を免れなかつたものというべく、右登記をなし得なかつたことによる損害は結局存在しないことに帰するものというべきであるから、原告の被告に対する本訴請求はこの点において既に失当たるを免れず、進んでその余の点を判断するまでもなく理由なきものとなさざるを得ないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第十部

裁判官 江尻美雄一

第一、第二目録<省略>

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